5979.jpg
フリーランスにセクハラ、会社に「安全配慮義務違反」が認められた理由は?
2022年06月05日 10時19分

業務委託契約を結んだエステ会社代表取締役の男性から体を触られるなどの被害にあったとして、フリーライターの女性がエステ会社とその代表取締役に対し、慰謝料や不払い報酬など約580万円を求めた訴訟で、東京地裁は5月25日、会社とその代表に約188万円の支払いを命じた

原告側弁護団によると、フリーランスに対するセクハラ・パワハラや会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例は珍しく、画期的だという。

今後、フリーランスがハラスメント被害を訴える上で、どのような影響があるのか。労働問題にくわしい太田伸二弁護士に聞いた。

業務委託契約を結んだエステ会社代表取締役の男性から体を触られるなどの被害にあったとして、フリーライターの女性がエステ会社とその代表取締役に対し、慰謝料や不払い報酬など約580万円を求めた訴訟で、東京地裁は5月25日、会社とその代表に約188万円の支払いを命じた

原告側弁護団によると、フリーランスに対するセクハラ・パワハラや会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例は珍しく、画期的だという。

今後、フリーランスがハラスメント被害を訴える上で、どのような影響があるのか。労働問題にくわしい太田伸二弁護士に聞いた。

●判決のポイントは?

——判決のポイントを教えてください。

この判決の特徴は、業務委託先の会社の「安全配慮義務違反」を理由として損害賠償を命じたことにあります。

今回の事件では、フリーランスのライターが業務委託を受けていた会社の代表者から受けたセクシャルハラスメントについて、代表者個人と会社に対して損害賠償を求めていました。

判決は、代表者個人・会社のいずれに対しても損害賠償義務があるとしていますが、その法的根拠は異なっています。代表者個人については民法709条の不法行為を根拠としていますが、会社については債務不履行責任を根拠としました。

不法行為とは、故意または過失によって相手に損害を与えた場合に賠償を命じるものです。交通事故や名誉毀損などで相手に損害を与えた場合などが典型的で、被害者と加害者の間に何らの関係が無い場合でも成立します。

一方、債務不履行責任というのは、契約で負っていた義務を果たさなかった場合に、その責任として損害賠償を行う義務を負うものです。

雇用契約関係がある場合、会社は従業員の「生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」(労働契約法5条)義務としての安全配慮義務を負っています。このような義務を負っている会社がこれを果たさなければ、先ほど述べた債務不履行として損害賠償義務を負うことになります。

例えば、セクシャルハラスメントが上司から部下に対して行われたような場合、会社は部下の安全を確保するための配慮ができていなかったとして、安全配慮義務を果たさなかった=債務不履行として損害賠償義務を負うのが原則です。

●雇用契約関係ではないが「安全配慮義務違反」が認められたワケ

——今回裁判所は、フリーライターの女性がエステ会社と雇用契約関係にあると認定したわけではありません。それでも安全配慮義務を負っていると判断されたのはなぜですか。

今回の判決で問題となったのは業務委託契約を結んだ企業の代表者からフリーランスのライターに対するセクシャルハラスメントで、雇用契約関係には無いので、先ほど述べた労働契約法の対象にはなりません。

しかし、安全配慮義務は雇用に限られず、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間」でも生じるとされています。

例えば、元請企業と下請企業の労働者の間には雇用契約関係はありませんが、元請企業が下請企業の労働者に直接に指示をしていたような場合には、元請企業に安全配慮義務が発生することもあるとされてきました。

今回の事例では、原告は被告代表者の指示を仰ぎながら業務を行っており、「実質的には、被告会社の指揮監督の下で被告会社に労務を提供する立場にあったものと認められる」と述べた上で、安全配慮義務の発生を認めました。

判決が認定したように「指揮監督があった」とすると雇用にかなり近い関係だということになります。このような認定を前提にすれば、業務委託先の会社とフリーランスのライターの間に安全配慮義務が発生するとした判断は妥当なものだと考えます。

●請求する法的根拠が増える

——今回の判決は、今後にどのような影響がありますか。   これまでもフリーランスの方が業務委託先から受けたセクシャルハラスメントについては、加害者個人の不法行為としても訴えることは可能でしたし、その会社に対して使用者責任を追及することができる場合もありました。

ただ、今回の判決で、会社の安全配慮義務違反も主張できることが示されたことは、請求する法的根拠が増えるということで意味のあるものだと考えます。

また、今回の判決で、フリーランスの方が受けたハラスメントについて、法的に請求できる可能性があることが伝わったこと自体にも意義があると考えます。

フリーランスの方と業務委託先の関係では、労働法による保護が無く、一方的な解約も可能であったりすることから、ハラスメントに限らずフリーランスの方はなかなか被害を訴えにくい状況にあると思われます。

しかし、弁護士や労働組合に相談することでトラブルの解決に進むこともできますので、被害を受けたと感じたら相談していただきたいと思います。

新着記事
一般的なニュースのサムネイル

同性婚訴訟、東京高裁が「合憲」判断 全国で唯一判断割れる結果に…弁護団「きわめて不当な判決だ」

性的マイノリティの当事者が、同性同士が結婚できないのは憲法に反するとして、国を訴えた裁判(東京2次訴訟)の控訴審で、東京高裁(東亜由美裁判長)は11月28日、現行法の規定を「合憲」と判断した。

一般的なニュースのサムネイル

最高裁で史上初の「ウェブ弁論」、利用したのは沖縄の弁護士「不利益にならない運用を」

裁判の口頭弁論をオンラインで実施する「ウェブ弁論」が今月、初めて最高裁でおこなわれた。

一般的なニュースのサムネイル

夫の「SM嗜好」に苦しむ妻、望まぬ行為は犯罪になる?離婚が認められる条件は?

パートナーの理解を超えた「性的嗜好」は、離婚の正当な理由になるのでしょうか。弁護士ドットコムには、そんな切実な相談が寄せられています。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「答え合わせしたい」日テレの拒否は「適正手続」の観点から問題?

コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。

一般的なニュースのサムネイル

国分太一さん「録音の削除求められた」消さないと違法だったの?弁護士が解説

解散したアイドルグループ「TOKIO」の国分太一さんが11月26日、東京都内で記者会見を開き、日本テレビ側から番組降板を告げられた際、会話を録音しようとしたところ、同席した弁護士からデータの削除を求められたと明らかにした。一般論として、法的に録音の削除に応じないといけないのだろうか。

一般的なニュースのサムネイル

「サケ漁はアイヌ文化の主要な部分」日弁連、アイヌ施策推進法の改正求める意見書

日本弁護士連合会(日弁連)は11月20日、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律」(アイヌ施策推進法)の5年見直しに際し、アイヌ集団の権利保障やサケ漁の権利の法整備などを求める意見書を公表した。同法附則第9条の見直し規定に基づき、文部科学大臣や農林水産大臣など関係機関に提出した。

もっと見る