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離婚するとき「養育費」を決めている夫婦はなぜ少ないのか?
2013年09月29日 18時05分

未成年の子がいる夫婦が離婚するとき、もっとも大きな問題となるのが「子ども」をめぐる取り決めだ。夫と妻のどちらが子どもを引き取るのかということに加え、別れた親と子どもの面会方法や養育費の分担について決める必要がある。

ところが報道によると、離婚時に子どもとの面会や養育費について決めている夫婦は半数強しかいないようだ。法務省の調査によると、昨年4月からの1年間で、未成年の子のいる夫婦が離婚届けを出した件数は13万1254件あったが、そのうち子どもとの面会方法を決めていたのは55%にあたる7万2770件、養育費の分担について取り決めていたのは56%に当たる7万3002件に過ぎなかった。

昨年4月に施行された改正民法では、離婚するとき面会方法や養育費の分担を取り決めることを求めている。それにもかかわらず、なぜこのような事態になっているのだろうか。離婚問題にくわしい小林明子弁護士に聞いた。

●離婚届に「チェック欄」が設けられた

「民法改正により、未成年の子どものいる夫婦が平成24年4月1日以降に離婚する場合、別居となる親子の面会交流や養育費の分担について取り決めるよう定められました。

この改正に合わせ、離婚届の用紙に、未成年の子どもがいる場合は、面会交流・養育費の分担について、取り決めをしているか、まだ決めていないかをチェックする欄が設けられました」

●厚労省の母子世帯調査では格段に低い数字が……

「法務省の調査結果によると、その取り決めをした夫婦は半数強となっています。しかし、このチェックは自己申告ですし、その内容、口頭の約束なのか文書を作成したのかまでわかりません」

もう少し違う調査結果もあるのだろうか?

「母子世帯を対象とした厚労省の調査(平成23年度全国母子世帯等調査)によると、養育費の取り決めをしている母子世帯の割合は37.7%、離婚の9割を占める協議離婚では30.1%(調停、裁判離婚では74.8%)となっています。また、面会交流の取り決めをしている母子世帯の割合は23.4%、協議離婚では18.4%と、いずれも非常に低くなっています。

したがって、きちんと取り決められているケースは、法務省の調査結果より少ないのではないでしょうか」

●取り決めない理由の1位は「相手に支払う意思や能力がないと思った」

なぜそんな事態になるのだろうか。

「養育費について取り決めをしていない理由は、さきほどの厚労省調査によると、第1位は相手に支払う意思や能力がないと思った(48.6%)、第2位は相手と関わりたくない(23.1%)となっています。

同調査によると、現在も養育費を受けている母子世帯の割合は19.7%と低くなっています。どうせ支払われなくなるなら、嫌な思いや苦労して取り決めなくてもいい、と思ってしまう気持ちもわかります」

小林弁護士は続ける。

「相談を受けていると、一刻も早く離婚して関係を断ちたい、これ以上相手と関係を持ちたくないといった理由で、養育費を受け取りたくないという方もいらっしゃいます。

また、養育費は要らないので子どもを相手に会わせたくないとか、養育費を請求するのであれば親権を渡さないと言われて困っているというケースもありました」

●公正証書や調停調書を作っておくべき

こうした相談に対し、小林弁護士は次のように説明しているという。

「養育費受給は子どもの権利ですから、夫婦間の事情に左右されるものではありません。また、父母どちらが親権を持ち、子どもを育てるべきかは、養育費の支払いとは別に考えなければならない問題です。

養育費については、公正証書あるいは調停調書があれば、給料の差し押さえができる場合もあります」

一方、親と子の面会交流もやはり「子どもの観点」から、取り決めを行っておくべき問題のようだ。

「面会交流については、書面で取り決めた内容を、裁判所が直接的に強制する形で守らせることはできません。けれども、取り決め方によっては、面会交流を拒絶した場合に金銭を支払わせるという形で、間接的に強制することができます」

いずれにしても、ポイントは取り決めの内容をしっかり書面に残すことだという。

小林弁護士は「養育費受給は子どもの権利であり、別居している親との面会交流は子どもの成長にとっても必要なことです。万が一、約束が守られなかった場合にも備えて、取り決め内容を公正証書あるいは調停調書にしておくことをお勧めします」とアドバイスしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

未成年の子がいる夫婦が離婚するとき、もっとも大きな問題となるのが「子ども」をめぐる取り決めだ。夫と妻のどちらが子どもを引き取るのかということに加え、別れた親と子どもの面会方法や養育費の分担について決める必要がある。

ところが報道によると、離婚時に子どもとの面会や養育費について決めている夫婦は半数強しかいないようだ。法務省の調査によると、昨年4月からの1年間で、未成年の子のいる夫婦が離婚届けを出した件数は13万1254件あったが、そのうち子どもとの面会方法を決めていたのは55%にあたる7万2770件、養育費の分担について取り決めていたのは56%に当たる7万3002件に過ぎなかった。

昨年4月に施行された改正民法では、離婚するとき面会方法や養育費の分担を取り決めることを求めている。それにもかかわらず、なぜこのような事態になっているのだろうか。離婚問題にくわしい小林明子弁護士に聞いた。

●離婚届に「チェック欄」が設けられた

「民法改正により、未成年の子どものいる夫婦が平成24年4月1日以降に離婚する場合、別居となる親子の面会交流や養育費の分担について取り決めるよう定められました。

この改正に合わせ、離婚届の用紙に、未成年の子どもがいる場合は、面会交流・養育費の分担について、取り決めをしているか、まだ決めていないかをチェックする欄が設けられました」

●厚労省の母子世帯調査では格段に低い数字が……

「法務省の調査結果によると、その取り決めをした夫婦は半数強となっています。しかし、このチェックは自己申告ですし、その内容、口頭の約束なのか文書を作成したのかまでわかりません」

もう少し違う調査結果もあるのだろうか?

「母子世帯を対象とした厚労省の調査(平成23年度全国母子世帯等調査)によると、養育費の取り決めをしている母子世帯の割合は37.7%、離婚の9割を占める協議離婚では30.1%(調停、裁判離婚では74.8%)となっています。また、面会交流の取り決めをしている母子世帯の割合は23.4%、協議離婚では18.4%と、いずれも非常に低くなっています。

したがって、きちんと取り決められているケースは、法務省の調査結果より少ないのではないでしょうか」

●取り決めない理由の1位は「相手に支払う意思や能力がないと思った」

なぜそんな事態になるのだろうか。

「養育費について取り決めをしていない理由は、さきほどの厚労省調査によると、第1位は相手に支払う意思や能力がないと思った(48.6%)、第2位は相手と関わりたくない(23.1%)となっています。

同調査によると、現在も養育費を受けている母子世帯の割合は19.7%と低くなっています。どうせ支払われなくなるなら、嫌な思いや苦労して取り決めなくてもいい、と思ってしまう気持ちもわかります」

小林弁護士は続ける。

「相談を受けていると、一刻も早く離婚して関係を断ちたい、これ以上相手と関係を持ちたくないといった理由で、養育費を受け取りたくないという方もいらっしゃいます。

また、養育費は要らないので子どもを相手に会わせたくないとか、養育費を請求するのであれば親権を渡さないと言われて困っているというケースもありました」

●公正証書や調停調書を作っておくべき

こうした相談に対し、小林弁護士は次のように説明しているという。

「養育費受給は子どもの権利ですから、夫婦間の事情に左右されるものではありません。また、父母どちらが親権を持ち、子どもを育てるべきかは、養育費の支払いとは別に考えなければならない問題です。

養育費については、公正証書あるいは調停調書があれば、給料の差し押さえができる場合もあります」

一方、親と子の面会交流もやはり「子どもの観点」から、取り決めを行っておくべき問題のようだ。

「面会交流については、書面で取り決めた内容を、裁判所が直接的に強制する形で守らせることはできません。けれども、取り決め方によっては、面会交流を拒絶した場合に金銭を支払わせるという形で、間接的に強制することができます」

いずれにしても、ポイントは取り決めの内容をしっかり書面に残すことだという。

小林弁護士は「養育費受給は子どもの権利であり、別居している親との面会交流は子どもの成長にとっても必要なことです。万が一、約束が守られなかった場合にも備えて、取り決め内容を公正証書あるいは調停調書にしておくことをお勧めします」とアドバイスしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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